中小企業の賃上げが進まないのはなぜだろう

中小企業の賃上げが進まないのはなぜだろう

「賃上げ率が過去最高」というニュースを見た。

でも身の回りの中小企業で働く人から、そこまで景気のいい話は聞こえてこない。

——このギャップってなんだろう。私はニュースの数字だけを見て、実感とのズレを感じることがしばしばある。

あなたはどうだろう。「賃上げ」というニュースを見たとき、素直に良い話だと受け取る派? それとも、どうせ大手だけの話だろうと思う派?

私は後者に近い。調べてみると、中小企業が賃上げしにくい理由は、円安や材料費だけでなく、もっと構造的なところにあるようだった。

賃上げできない最大の理由: 「価格転嫁」が進んでいない

中小企業庁の価格交渉促進月間フォローアップ調査(2026年3月時点)によると、価格転嫁率は54.2%(前回比+約1ポイント)。内訳はコスト要素によって差があり、原材料費は55.7%まで転嫁できている一方、労務費は50.0%にとどまる。つまり「材料費の値上がり分」はまだ転嫁しやすいが、「人件費を上げた分」を取引価格に乗せることは、より難しいという構造がある。

日本商工会議所の調査でも、コスト増加分について「ほとんどできていない」「していない」と回答した企業が合計48.4%にのぼる。約半数の中小企業は、コスト増をほぼ自社で吸収している状態ということだ。賃上げの原資は本来こうした価格転嫁で生まれるはずなのに、そこが機能していないので原資自体が細っていく。

26年春闘の実績: 賃上げ率は上がったが大手との差は埋まらない

2026年春闘での中小企業の賃上げ率は4.69%(前年比+0.04ポイント)。上昇はしているが、連合が目標に掲げる「6%以上」には届いておらず、大手企業との格差は依然として残っている。「賃上げ率が上がった」というニュースの裏で、価格転嫁が進まないまま原資を絞り出している中小企業が多いというのが、実態に近いのではないだろうか。

なぜ円安が絡むのか

原材料の多くを輸入に頼る業種では、円安が進むと輸入コストがそのまま上昇する(輸入インフレ)。ここで価格転嫁ができればコスト増を吸収できるが、転嫁率が5割程度にとどまる以上、円安による原材料高は利益を圧迫し、賃上げどころではなくなる企業も出てくる。

逆に言えば、円安は「価格転嫁が必要な理由」を増やす一方で、「価格転嫁できない企業」をより苦しくする方向に働いているわけだ。

なぜ国産は輸入品より高くなりやすいのか

  • 生産規模の違い: 国産は生産規模が小さく、大量生産によるスケールメリットが働きにくい。天候や季節の影響も受けやすく、供給が不安定になりがちで価格変動も大きい
  • 労働生産性・人件費構造: 日本は労働生産性の面で不利があり、生産から流通まで含めたコストが割高になりやすい。輸入品は人件費の低い地域での大量生産によって単価を下げられる
  • 為替の影響で逆転することもある: 円安が進むと輸入品側のコストが上がるため、これまで割高だった国産品と価格が拮抗したり、逆転する品目も出てきている(例: 牛肉やレモンなど)

つまり「国産が高いのは品質が良いから」だけでなく、「生産規模が小さく、スケールメリットが働かない」という構造的な理由が大きい。これは中小企業が価格転嫁をしにくい理由(規模が小さく交渉力が弱い)とも、根っこが同じなんだと思う。

まとめ:価格の付け方が下手すぎる

賃上げの原資は「価格転嫁」で生まれるはずだが、中小企業は労務費の転嫁率が5割程度と特に弱く、原材料費以上に上げにくい。円安はこの構造の中で輸入コストを押し上げ、価格転嫁できない企業をさらに苦しくしている。国産が高くなりやすいのも、規模の小ささという同じ根っこの問題に行き着く。

根本にあるのは、日本企業全体が価格の付け方に慣れていないことなんじゃないかと思っている。周囲より安ければ売れやすいが利益は少なくなる、という市場原理のもとで、過去から現在まで「セール・割引」を主軸としたマーケットが続いてきた。安くて良いものが当たり前になってしまったぶん、モノに対する価値観だけは高いのに、高い金を払おうとしない市場になっている。

はっきり指摘して市場に介入するわけでもなく、「よくわからんけど物価は高いし賃金は相対的に安め」という状況をなんとなく受け入れている今の環境は、インフレよりマシだし国際的に見れば安定してはいる。ただ、企業比率の高い中小企業が価格相場の暗黙の足並みをやめて、商品価値に見合った適正な価格をつけることをためらわなくなったら、この現状はけっこう大きく変わるんじゃないかなと思っている。