子育て女性のリスキリング━━制度の外にいる人が忘れがちなこと

子育て女性のリスキリング━━制度の外にいる人が忘れがちなこと

「政府や企業が『リスキリング(学び直し)』の旗を振っているが、その主役はキャリアを積んだ会社員ばかりではない」

朝日新聞の報道では、出産や育児でいったん離職した女性の間でも関心が高まっている、と書かれている。3児を育てながらウェブ制作の仕事を始めた秋谷みず帆さん(33)は、家事と育児の合間に1日あたり約9時間の作業時間を確保し、「仕事が初めて楽しいと思えるようになった」と語る。

私はこの記事を読んで、制度の話と個人の話がごちゃ混ぜになりがちだ、と感じた。

あなたはどうだろう。「リスキリング」と聞いて、会社の研修制度を思い浮かべる派? それとも、自分でスクールに通って学び直すイメージが先に来る派?

私は後者に近い。だからこそ、旗の下にいる人と、その外にいる人では、必要な準備が違うのではないか、と考えた。

なぜ今、キャリア中断後の学び直しが必要なのか

リスキリングが話題になる背景には、構造的な理由がある。

雇用の流動化、在宅勤務の普及、ITスキルの需要拡大━━どれも「一度身につけた職種を、そのまま定年まで続けられる」前提を揺らしている。出産・育児・介護で離職した人にとっては、ブランクそのものが不利になるだけでなく、復帰先の選択肢が狭いという問題も重なる。

朝日新聞の記事でも、秋谷さんは専業主婦として8年間過ごしたあと、在宅でできるスキルを求めてウェブ制作のオンラインスクールに出会った、と書かれている。IT分野が注目されるのは、場所と時間をある程度自分で設計できるからだ。これは子育て中の人にとって、現実的な選択肢になりうる。

ただ、報道が伝えるのは「道は開ける」という希望の側面だけではない。見出しに「根性は必要だが」とあるように、制度が用意してくれるわけではない領域が、ちゃんと存在する。

リスキリングの制度は、誰のためのものか

世の中で「リスキリング」と言われるとき、多くは企業所属の社員が会社の指示でスキルアップする、という絵が先に浮かぶ。経済産業省のリスキリング事業、厚生労働省の求職者支援訓練、企業の教育手当━━こうした制度には、補助金や助成金がつく。

一方で、一度キャリアから外れた主婦・主夫、非正規から離職した人、フリーランス志望の未経験者は、その枠に入りにくいことが多い。会社が申請の窓口にならない。在籍証明がない。訓練の日程が保育園の送迎と噛み合わない。

学び直しそのものは誰にでも可能だ。でも「制度としてのリスキリング」「個人でやる学び直し」は、費用もリスクも負担の置き場所も違う。ここを混同すると、「国が推進しているから、なんとかなるだろう」という誤解が生まれる。

学び直しに、個人の努力は不可欠

秋谷さんの1日約9時間という数字は、制度の話を聞いているだけでは想像しにくい。

朝、子どもを送り出してから迎えまで。夜、寝かしつけたあと。━━隙間時間の積み上げだ。在宅だから楽、というわけではない。むしろ、仕事と育児の境界が溶けるほど、自己管理の負荷は上がる。

リスキリングを成功談として読むと、「オンラインスクールに入れば変われる」ように見える。実際には、動画を見て終わりではない。課題を提出し、クライアントワークに近い形で成果物を作り、フィードバックを受けて直す━━このサイクルを自分で回す必要がある。

スクールは地図を渡してくれる。歩くのは本人だ。補助金がつく訓練であっても、結局は同じだと思う。

目標がなければ、効率よく学べない

ここが、私が一番伝えたいところだ。

「ITスキルを身につけたい」「在宅で働きたい」は、動機としては十分でも、学習の目標としては粗すぎる。何のために、いつまでに、どの水準まで、を決めていないと、カリキュラムのどこに力を入れるべきかわからない。

ウェブ制作を例にすると、方向はいくつもある。コーディング寄りか、デザイン寄りか。WordPressでサイトを納品できるようになるのか、Shopifyの構築までやるのか。フリーランスとして単価3万円の案件を月2本こなすのか、正社員のポートフォリオを揃えて転職するのか。

目標が違えば、必要な学習時間も、作るべき成果物も、証明すべきものも変わる。

企業が採用や発注を判断するとき、履歴書の「意欲」だけでは足りない。わかりやすいのは成果物資格だ。主婦・主夫がキャリアの外から返り咲くなら、制度の枠に入れなくても、この2つを自分で用意する必要がある、というのが現実だろう。

目標を「3ヶ月後に架空クライアント向けのLPを1本納品できる」くらいまで落とし込めば、毎週何を勉強するかが決まる。逆に目標が曖昧なままだと、動画視聴だけで満足してしまう。時間は使ったのに、証明できるものがない━━これがいちばんもったいない。

まとめ:旗の下と外側

リスキリングの必要性は、朝日新聞の報道が示すとおり、キャリア中断後の女性にも及んでいる。在宅と相性のいいIT分野に注目が集まるのも、納得できる流れだ。

ただ、制度の旗の下にいる人と、外にいる人では勝ち筋が違う。学び直しは個人の努力が半分を占めるし、目標がなければ効率よく進めない。私は、スクールを選ぶ前に「何をもって終わりとするか」を紙に書くところから始めるのがよい、と思っている。