Uber Eatsの配達員が信号待ちしているのを見かけると、あの手数料はいくら店側から引かれているんだろう、とつい考えてしまう。
以前「テイクアウトはどこまで自動化が可能か——人・AI音声・Webフォームのコスト比較」で受注の自動化を試算したとき、最後に配達と決済は別問題だと書いた。受注が片付いても、料理を届ける手段は自動的には決まらない。
あなたはどうだろう。多少手数料を払ってでもプラットフォームに乗せたい派? それとも自分たちで配達員を抱えたい派?
私は件数次第で答えが変わると思っている。少なければプラットフォームが正解だし、ある程度の件数を超えると自社配達の方が安くなる局面が出てくる。今回はその損益分岐点を数字で見ていく。
デリバリーの3択
テイクアウト専業なら店舗受け取りだけで完結するが、デリバリーをやるなら選択肢は大きく3つになる。
- 既存プラットフォーム(Uber Eats・出前館・menu等)に乗る
- 自社配達を組む(アルバイト雇用、または地域限定のコワーカー募集)
- デリバリーはやらず、受け取り・イートインに集中する
プラットフォームは手数料が高い(25〜35%前後)が、配達員の確保・決済・集客をまるごと任せられる。自社配達は手数料こそゼロに近いが、配達員の確保・保険・事故対応・ルート最適化を店側が背負うことになる。
個人店が独自のテイクアウトシステムを作るなら、配達エリアは狭く限定するのが現実的だ。同一町内・半径2km程度——広域配達で大手の物流網に勝つのは難しい。
試算の前提
前回記事に合わせて、個人飲食店を想定する。
- デリバリー件数:1日20〜30件
- 配達エリア:半径2km以内
- プラットフォーム手数料:30%(客単価に対して)
- 客単価:1,200円
- 配達員の時給:1,400円
- 1件あたりの配達時間:往復15分(調理待ち・受け渡し込み)
- 月の営業日:26日
プラットフォーム手数料の月額
客単価1,200円・手数料30%なら、1件あたり360円が手数料として引かれる。
- 20件/日:360円 × 20 = 7,200円/日 → 月額約18.7万円
- 30件/日:360円 × 30 = 10,800円/日 → 月額約28.1万円
件数が増えるほど、手数料の絶対額も比例して膨らんでいく。ここが自社配達との比較軸になる。
自社配達の人件費試算
1件15分・時給1,400円なら、1件あたりの人件費は350円。
- 20件/日:15分 × 20件 = 300分(5時間)→ 1日7,000円 → 月額約18.2万円
- 30件/日:15分 × 30件 = 450分(7.5時間)→ 1日10,500円 → 月額約27.3万円
数字だけ並べると、プラットフォーム手数料とほぼ拮抗している。ただしこれは配達員が待機なしで常に稼働している前提だ。実際は注文が来ない時間帯も配達員を待機させる必要があり、その分の人件費が上乗せされる。
待機時間を入れた現実的な試算
配達件数が営業7時間に均等に分散するとして、配達員を7時間フルで拘束する場合を考える。
- 7時間 × 1,400円 = 9,800円/日 → 月額約25.5万円(件数によらずほぼ固定)
この場合、20件/日なら自社配達の方が割高(25.5万円 vs 18.7万円)になる。30件/日に増えると、ほぼ互角(25.5万円 vs 28.1万円)まで詰まる。
つまり損益分岐点は、配達員1人が実働時間の大半を配達に使えるかどうかで決まる。件数が少ないうちは待機の無駄が響き、プラットフォームの方が安い。件数が増えて配達員がほぼ配達だけで手一杯になれば、自社配達が有利に転じる。
保険・事故対応というもう一つのコスト
試算に入れていないが無視できないのが保険・事故対応だ。自社配達は配達員の事故・トラブル発生時の責任を店側が負う。原付・自転車保険、対人賠償保険への加入がほぼ必須になり、月数千円〜1万円程度の固定費が上乗せされる。
プラットフォーム経由なら、この部分の保険・補償はプラットフォーム側の制度に乗る形になる。ここは手数料に含まれている「見えないコスト」だと捉えるべきだろう。
決済の壁
決済も絡んでくる。プラットフォーム経由なら決済は任せられるが、自社配達だと事前決済(Stripe等)か代引きかを選ぶ必要がある。代引きは現金管理が面倒で、レジ締めの手間が増える。
事前決済を入れるなら、資金決済法・特定商取引法の表示義務、返金フローの整備が要る。ちゃんと商売するには、AIで動くものを作るだけでなく法務・会計まで含めた整備が必要になる——ここは前回記事でも触れた通りだ。
自社配達の人員確保という壁
自社配達を選ぶ場合、配達員をどう確保するかが次の論点になる。地域限定のコワーカー募集や専用アプリという案があるが、グローバルサービスではなくローカル設計にするのが現実的だ。
「使えればいいレベル」ならAIでアプリは作れる。ただし配達員の管理画面・位置情報の共有・配達完了通知まで含めると、開発コストは思ったより膨らむ。受注の自動化よりも、こちらの方が実装範囲は広い。
3択の比較表
| 選択肢 | 月額コストの傾向 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| プラットフォーム | 件数に比例(20件で約19万円) | 手間ゼロ、決済・集客込み | 手数料25〜35%、件数増でコスト増 |
| 自社配達 | 待機込みでほぼ固定(約25万円前後) | 件数が増えるほど割安になる | 保険・人員確保・システム開発が壁 |
| 受け取りのみ | ほぼ0円 | コスト最小 | デリバリー需要を取りこぼす |
どの店に向くか
私なりに整理すると、こうなる。
プラットフォームが向く店
- デリバリー件数がまだ少ない(20件/日未満)
- 配達員を雇う余力がない、または管理の手間を避けたい
- 集客もプラットフォームに乗せたい
自社配達が向く店
- デリバリー件数が安定して30件/日を超えている
- 配達エリアを半径2km程度に絞れる
- 保険・事故対応・システム開発にかける初期コストを許容できる
受け取りのみで十分な店
- 立地的に来店客だけで回っている
- デリバリーの手間よりイートイン・テイクアウトの質を上げたい
件数がまだ読めない段階では、まずプラットフォームで様子を見て、件数が積み上がってきたタイミングで自社配達への切り替えを検討する——という順序が無難だと思う。
まとめ:件数が分岐点を決める
プラットフォームと自社配達、どちらが安いかは固定の答えではなく、件数と配達員の稼働率次第で入れ替わる。20件/日前後なら待機の無駄が響いてプラットフォームが有利、30件/日を超えて配達員がほぼ配達だけで手一杯になれば自社配達が追いつき、逆転もありうる。
ただしコストの比較だけで決めきれる話でもない。保険・事故対応、配達員の人員確保、事前決済を組む場合の法務対応——数字に出てこない運用の壁は自社配達の方が明らかに重い。手数料25〜35%は高く見えるが、その中に保険や決済のリスクを丸ごと引き受けてもらっている分も含まれている、と捉えるのが妥当だろう。
受注をAIで自動化し、配達もコストで最適化しても、個人店が独自にローカルEC化するハードルはまだ残っている。件数が読めない段階ではプラットフォームで様子を見て、実績が積み上がってから自社配達への切り替えを検討する——今の私はその順序が一番堅実だと思っている。