焼肉屋の「生タレあり」、生じゃないタレって何?

焼肉屋の「生タレあり」、生じゃないタレって何?

「生タレあります」

——入野の焼肉屋で見かけたのぼり。シンプルなツッコミなんだけど、生のタレって、普通の焼肉のタレのことじゃないの? となると、生じゃないタレって何が該当するんだ、と一瞬だけ立ち止まった。

あなたはどうだろう。「生タレ」、特別なものだと思う派? ただの焼肉のタレだと思う派?

私は後者寄りだった。ただ、北見あたりの焼肉文化を少し調べてみると、「生」は味の形容詞というより、加熱の有無を指しているらしい。

生タレはあります

北見のたれ通販ショップ GREAT SAUCE 7 を見ると、「生たれ」カテゴリが独立している。北見市は「焼肉の街」と呼ばれ、人口12万人台に対して60店舗以上の焼肉店がある━━人口あたりの焼肉店密度が北海道1位、全国でも上位に入るらしい。

北見焼肉の特徴の一つが、この生タレだ。果物や玉ねぎ、ニンニクなどをすりおろして混ぜ、加熱せずに数日間熟成させる。焼肉屋ごとにレシピが違い、店の看板になる味付けだ。

香味野菜やフルーツをみじん切りして漬け込んだタレ、というイメージは一般的な焼肉のタレと重なる。でも北見で「生タレ」と呼ぶときの判別軸は、素材の種類より非加熱にある。

加熱処理を通すと殺菌・滅菌が効いて長持ちする。非加熱だから風味が増す、とも一概には言えない。ただ「生」という言葉は、日本人にとってなんとなく良さそうな響きを持っている。キラーワードとして機能しているのは間違いない。

生タレとよくあるタレは何が違うのか

たぶん一番大きいのは、熱を通しているか通していないかだ。

スーパーのタレコーナーに常温で並んでいる瓶詰めの焼肉のタレは、多くが加熱殺菌済みだ。pHや水分活性の条件次第では、食品衛生法上「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」として、中心部120℃・4分相当の殺菌が求められるケースもある。常温で長期流通させるための設計だ。

一方、北見の生タレは冷蔵保存が前提で、賞味期限も短い。GREAT SAUCE 7 の商品説明にも「スーパーなどで常温陳列されているたれとは一味違う。冷蔵保存が必要で賞味期限も短い」と書いてある。

つまり、のぼりの「生タレあり」は「うちのタレ、おいしいよ」だけでなく、加熱していないタイプのタレを出しているよ、というアピールにも読める。

非加熱なのに、ちゃんと売れている理由

ここが私がもっとも気になったところだ。生タレを販売するうえで、賞味期限や衛生管理のルールはちゃんと通っているのだろうか。

結論から言うと、ルールはある。ただ「常温の瓶詰め」と同じ枠組みではない

店舗で当日提供する分は、調理場の衛生管理と短期消費の範囲で回る。瓶詰めや通販に載せる場合は、冷蔵流通か、瞬間冷凍など別の保存技術で対応している。北見では老舗店が瞬間冷凍した生タレをふるさと納税や通販で出している例もある。

大量生産のメーカー製タレなら、ロット管理の都合上、滅菌処理に注力するのが合理的だ。だからスーパーの定番タレと、北見の生タレは同じ「焼肉のタレ」カテゴリでも、流通の前提が別物になる。

北見スタイルで肉を食べると、生タレの意味がはっきりする

北見焼肉は、下味をつけない肉(牛サガリやホルモンなど)を、七輪の炭火で焼いて、生タレか塩こしょうで仕上げるスタイルだと説明されている。

肉自体に味が乗っていない分、タレ側の個性がそのまま出る。だから各店が生タレにこだわるわけで、のぼりの「生タレあり」も単なる装飾ではなく、北見焼肉の入口に近い。

私が入野で見たのぼりも、きっとその文脈の一つだろう。全国チェーンの「秘伝のタレ」とは、製造工程の話が違う。

まとめ:生は味より工程

「生タレ」と聞いて想像するのは、新鮮な野菜が入ったドロッとしたタレかもしれない。でも実際の差分は、加熱殺菌した流通用タレか、非加熱の熟成タレか、そのあたりにある。

スーパーのタレが「生じゃない」のは、味が劣るからではなく、常温で安全に売るための設計だ。北見の生タレが「生」なのは、加熱をかけずに店の味を守る選択だ。

次に「生タレあり」ののぼりを見たら、「生っぽい名前の焼肉のタレか、それとも非加熱の北見型か」━━そう問い直すと、看板の意味が少しはっきりする。