麺を口で切るとキレる人に食べさせたい、すすれない名物麺

麺を口で切るとキレる人に食べさせたい、すすれない名物麺

「すすって食べなさい」

「口で切るな」

——ラーメン屋やうどん屋で、隣の席の音や食べ方にうるさい人がいる。私はだいたい気にしない派だが、「口で切るな」ルールを厳守する人には、一度だけ試してほしい麺がある。すする以前に、物理的に無理なやつだ。

あなたはどうだろう。麺の食べ方、気にする派? そもそも音すら気にならない派?

私は後者だ。ただ、日本にも海外にも「すする」という常識を根こそぎ覆す麺が存在する━━その話を整理してみた。

日本国内の「すすれない」名物麺

日本国内には、まさに「すすって食べる」という麺類の常識を覆す、圧倒的な太さや長さを誇る名物麺がいくつか存在する。そのユニークすぎる形状ゆえに、食べづらさやインパクトで全国的に有名になった代表的な麺料理を紹介する。

ひもかわうどん(群馬県桐生市)――「太すぎる(幅が広すぎる)麺」の代表格

「太い」というより「平べったすぎる」ことで有名なのが、群馬県桐生市の郷土料理である「ひもかわうどん」だ。

  • どれくらい規格外か: お店によっては 幅が10cm〜15cm以上 もあり、厚みは1mm程度と薄いのが特徴。一見すると一反木綿(いったんもめん)や、白い布切れのようにも見える。
  • 食べづらさの理由: 当然だが、一般的なうどんのように「すする」ことは不可能。箸で持ち上げるとずっしりと重く、口を大きく開けて折りたたむようにして食べるか、前歯で噛み切りながら食べる必要がある。油断すると、つゆが派手に跳ねるのも難点だ。

一本うどん(京都府・埼玉県など)――「太すぎて長すぎる」歴史ある奇食

器の中に、太い麺が「たった1本」だけトローリと横たわっている、文字通りの一本うどん。京都の老舗「たわらや」の「たわらやうどん」や、埼玉県羽生市(鬼平江戸処)の「五鉄」などが有名だ。

  • どれくらい規格外か: 直径が1cm〜2cm近く もある極太の麺で、長さは50cm〜1mほどある。じっくり時間をかけて茹でられるため、外はモチモチ、中はすいとんのような強いコシがある。
  • 食べづらさの理由: 箸で持ち上げようとしても、その重量とツルツルとした質感で滑り落ちやすく、1本が長いためどこから箸をつけていいか迷う。一口でいくのは無理なので、器の端で少しずつ噛み切りながら食べ進めるスタイルになる。

吉野の葛切り / そうめんの「ふし」(奈良県など)――「長すぎる・啜りきれない麺」

少しジャンルは変わるが、「長さ」や「啜りきれなさ」で圧倒的なのが、奈良県吉野地方などで提供される「賞味期限10分の作りたて葛切り」や、手延べそうめんを作る際に出る「ふし麺(裁断面)」、あるいは一部の超ロング手延べ麺だ。

  • どれくらい規格外か: 特に手延べ製法で作られる一部のうどんやそうめんには、切断せずに提供されるものがあり、1本の長さが数メートル に及ぶことがある。
  • 食べづらさの理由: どこまで持ち上げても麺の端が見えず、立ち上がらないとつゆの器に移せないほど長いことがある。また、名物の葛切りなどは弾力と滑らかさが凄まじく、箸で掴むこと自体が難易度高めだ。

番外編:山形県の「肉そば」や冷やし肉うどんの極太系

山形県の一部地域(河北町など)の肉そばや、山梨県富士吉田市の「吉田のうどん」も、顎が疲れるほどの「硬さと太さ」で有名。こちらは長さよりも「噛みちぎる大変さ」という意味での食べづらさ(噛みごたえ)が愛されている。

海外の規格外な麺料理

海外にも、日本の「ひもかわ」や「一本うどん」に負けず劣らず、食べるのにコツがいる規格外の麺料理がいくつも存在する。中国のビャンビャン麺を含め、その圧倒的な太さや長さ、そしてユニークな食べづらさで知られる代表例を紹介する。

ビャンビャン麺(中国・陝西省)――「ベルトのような太さ」の元祖

「太すぎる麺」の世界的な代表格の一つ。西安市などがある陝西省(せんせいしょう)の伝統的な手延べ麺だ。

  • どれくらい規格外か: 幅は2cm〜5cm以上 あり、長さは1m〜2mほど。現地ではその形状から「裤帯麺(ズボンのベルトのような麺)」とも呼ばれている。生地を伸ばす際に台に叩きつける「ビャンビャン!」という音が名前の由来だ。
  • 食べづらさの理由: 1本が非常に長く、かつ幅が広いため、箸で1本持ち上げるだけでずっしりとした重量感がある。タレやラー油、具材を絡めて食べるのだが、豪快にすすると高確率で服に真っ赤な油が跳ねる。前歯で噛みちぎりながら、もぐもぐと「食べる」感覚に近い麺だ。

ラグマン / ラグモン(中央アジア全域)――「長すぎて途切れない」手延べ麺

ウズベキスタンやキルギス、中国の新疆ウイグル自治区などで日常的に食べられている、トマトや羊肉の煮込みをかけた麺料理。ラーメンのルーツ(拉麺=拉は引き伸ばすの意味)の一つとも言われている。

  • どれくらい規格外か: 包丁を一切使わず、1本の太い生地の塊を両手で何度も何度もびよ〜んと引き伸ばして作られる。そのため、器に入っている麺は 数メートルに及ぶ1本の長い麺、あるいは数本だけで構成されていることが珍しくない。
  • 食べづらさの理由: 麺の端っこがなかなか見つからないほど長いため、すするのを途中で諦めるか、箸で高く持ち上げて噛み切る必要がある。現地ではスープ仕立てや、焼きうどん風(ボソ・ラグマン)などがあるが、どれも麺の強靭なコシと長さに圧倒される。

センヤイ(タイ)――「トゥルツル滑る」超幅広の米粉麺

タイの炒め麺「パッシーユー(醤油炒め)」や、スープ麺の「クアッティオ」などで使われる、最も太いタイプのライスヌードルだ。

  • どれくらい規格外か: 新鮮な米粉の蒸しシートをカットして作られる生麺で、幅は2.5cm〜4cmほど ある。
  • 食べづらさの理由: 米粉の生麺特有の「水分を多く含んだ、ものすごくツルツル・モチモチした質感」が特徴。箸で掴もうとしても、その自重と滑りやすさでスープの中にポチャンと落ちやすく、スープの跳ね返りに注意が必要。タイではフォークとスプーン、あるいは短めの箸を使って、折りたたむように口に運ぶ。

パッケリ(イタリア)――「スープを吸うと巨大化する」巨大筒型パスタ

パスタの国イタリアにも、食べづらさで有名な巨大パスタがある。南イタリア・カンパニア州生まれの「パッケリ」だ。

  • どれくらい規格外か: マカロニをそのまま 直径3cm〜4cm、長さ4cm〜5cmほどに巨大化させたような形状 をしている。茹で上がるとさらに一回り大きくなり、お皿の上での存在感は抜群。ちなみに名前の由来は、イタリア語で「平手打ち(パッカ)」を意味し、茹でる時や食べる時に「パチパチ」と音がすることから来ている。
  • 食べづらさの理由: フォークで刺そうとすると潰れてソースが飛び散り、巻くこともできないため、ナイフで小さくカットするか、スプーンでソースごとすくい上げるようにして食べる必要がある。一口でいくと口の中が完全にパスタで支配される。

番外編:中国の「長寿麺(一根麺)」

中国の誕生日や旧正月の文化には、縁起を担いで「途中で絶対に切らない、器の中に最初から最後まで1本しか入っていない麺」を食べる習慣がある。これもまた、切らずに長寿を願って食べるという「文化的なルール」があるため、非常に食べづらくユニークな麺として有名だ。

まとめ:噛み切れ、という正義

「口で切るな」というルールは、細い麺をすする文化の中で成立している。ひもかわうどんやビャンビャン麺の前では、その前提が最初から崩れる。

マナー警察に食べさせたいのは、相手を困らせるためではない(まあ、少しは困らせたい気もなくはない)。麺の形が食べ方を規定する━━そういう当たり前を、一度だけ体感してもらいたい、という話だ。

次に「すすって食べなさい」と言いたくなったら、ひもかわの写真を見せてから言う。相手が黙ったら、勝ちだ。